上野公園の散歩日記

毎朝上野公園にカメラを持って、花、鳥、木、葉っぱなどを写しています。

メタセコイア

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天声人語  東京・上野の国立科学博物館の一角で、長身の木が2本、寒空に枝を伸ばす。メタセコイアだ。 「生きている化石」とも呼ばれ、命名からちょうど80年の節目を迎える▼名付けたのは、京都帝国大学の三木茂博士。 大量の植物の化石を分析し、それまで常緑のセコイアなどと思われてきたものの中に、未知の落葉樹を発見した。 セコイアに「後の(メタ)」というラテン語(後日訂正ギリシャ語)をつけた学名で発表した。太平洋戦争へ突き進んだ1941年のことだった▼ 科学博物館で開催中の企画展をのぞくと、博士愛用のリュックサックがあった。岐阜や和歌山など各地で化石が入った泥を採集しては背負った。 「闇米を運んでいるのではと警察から呼び止められたこともあったそうです」と矢部淳究主幹(50)は話す▼ 当時の学界では、絶滅した植物と信じられていた。ところが三木博士の論文発表から5年後、中国の奥地で生きているメタセコイアが確認された。 現地の呼び名は「水杉」。米国の専門家が種を譲り受けて日本に100本の苗木を贈った。 戦中戦後の混乱期にも続いた日中米の研究者の助け合いが実を結んだ▼ 筆者が通った愛知県内の高校にもメタセコイアがあった。4階建て校舎をしのぐ背丈。入学した日には輝く緑の葉に心が弾み、秋には目を射る褐色の葉に威厳を感じた▼ 科学博物館のメタセコイアは葉を落とし、まだまだ冬の装い。この物静かな哲学者のような木も、中国奥地で「再発見」された1本の子孫かと思いをはせた。 2021・3・4 朝日新聞より